【それはきっと恋の味】
カラフルな13色のジェリービーンズ。ふわふわのシフォンケーキ。
こんがり焼き目のついた月餅に、涼やかなチョコミントアイスクリーム。
フルーツが乗せられた薄桃色のジュレに、濃緑の葉に包まれた和菓子。
机上に並べられたカラフルなデザートは、全て一人の少女のためにある。
「……とりあえずこんなもんかな」
「わ〜……本当によかったんですか? こんなにたくさん!」
「勿論だよ。せっかくの雪歩のエッセイの仕事だし張り切っていかなとな!」
きらきらと瞳を輝かせながら、おかっぱ頭の少女は笑みを浮かべる。
萩原雪歩。男の人が苦手な、男性人気の高いCランクアイドル。
今回は雑誌での連載企画のために、プロデューサーと共にデザートと対峙していた。
名前は『ゆきほのおうちカフェ』。毎月雪歩がテーマを決め、お茶に合うスイーツを紹介するエッセイだ。
「第一弾はどんなテーマでいくんだ?」
「う〜ん……なんとなくしか決めてないんですけど、みんなと食べたいスイーツがいいかなぁって」
「なるほどな。お茶会とか、そういうコンセプトってことか」
「やっぱり、おいしいものは皆で食べたいなぁって思って」
「うーん……そうするとやっぱ、ケーキよりも一口で食べられるやつのがいいってことかな」
視線は、ホールケーキからプティフールに移る。
プチサイズのムースにケーキ。エクレアにクッキー、色鮮やかなマカロンが並んでいる。
「プロデューサー、その赤いお菓子は何ですか?」
「これか?えっと……洋酒漬けのフルーツが入ったチョコ……みたいだぞ」
「洋酒漬けですか? ちょっと興味あるけど、お酒が強すぎると駄目なんですよねぇ」
「ん、じゃあ試してみるか?」
真紅のフィルムが剥がされ、少し楕円状になったチョコレートが顔を出す。
「ほら、あーん」
「ふぇ!?」
驚き声を発した雪歩に、プロデューサーがチョコレートを放り込む。
ほろ苦いカカオパウダーの表面が口の中で溶け、、甘やかなミルクチョコレートの味が広がる。
予想よりも甘いガナッシュのコーティングを噛み砕くと、ダークチェリーの洋酒漬けが顔を出す。
ブランデー独特の風味に、チェリーの味が口いっぱいに広がっていく。
「どうだ? 大丈夫そうか?」
少し大人びた味が喉奥に入り、プロデューサーの問いかけが鼓膜に響く。
唇に触れた指の感触が雪歩の処理能力を限界まで追い込んでいた。
「あ……あのあの……そのっ……」
「ゆき、ほ?」
「おおお、お茶いれてきますううううう〜!!!」
バタバタと足音を立てて出ていく雪歩。乱暴に閉じられた扉を見ながら、プロデューサーは首を傾げるのであった。
チョコレートが包まれたフィルムと同じくらい顔を赤くした雪歩は床に座り込む。
うるさいくらい鳴る心音も、顔の赤みも収まる気配が微塵も無い。
「……どうしよう……」
ごくりと飲み干した、苦くて甘い味が胸の奥にじわりと染みこんでいく。
しばらく部屋には、戻れそうになかった。
FIN.
またストレートですね。 恋こそ青春!
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恋の甘さと青春が上手く絡んで良かったと思います。
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瑣末な技術論になるかもしれませんが、引用を「○○、って」と表記するとより雪歩らしくなるかもしれません。
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雪歩ーーーーーーーー
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自分、甘味が苦手なんです。食べられなくはないんだけど、すぐお腹いっぱいになってしまって。でも、美味しそうにお菓子を食べる女の子は、いつまで見ていても楽しい。ちょっとまだ、ゆきぴょんには早かったんじゃないかな、その味は。などと、ホントにまぁ腹が空いてる時に読むものではないですね、甘味が苦手な自分でも「ああ、食いてえ!」と思わせる緻密な描写と、もしかしたら「大人の味」を知ってしまった雪歩の狼狽っぷりがとても可愛らしくて、ごちそうさまでしたw
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凄く美味しそう・・・
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恋の味はほろ苦い? そんな味に酔いしれる雪歩、素敵です。良いデザートでした。
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雪歩が可愛いです。それにしてもPは鈍すぎだと思います。
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ほろ苦い→甘い→洋酒漬けの果実という味の変化が、実に見事に恋の味を表現しているように感じてああ雪歩かわいいな、ちくしょう理屈とか抜きで甘々なお話をありがとうございましたプロデューサー滅びれろ!
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恋心にぐるぐるしてしまう雪歩はかわいいなあ。鈍感プロデューサーはお約束ですが、どこか応援したくなる二人です
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列挙されたデザートも甘いけど、雪歩の恋心が輪を掛けて甘くてキュンキュンしました!
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描かれる視点が、なんとなく女性寄りな感じがしました。(男性の方だったらすいません;) こういう作風と雪歩は親和性が高いですね。読んでいて微笑ましくなります
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いや、これぞまさに青春ですね。雪歩はアルコールに酔ってしまったのか。それとも……?
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あまーい!なるほど、苦いだけが青春じゃないですもんね。
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