【無題】
渇く――。
どれだけ飲んでも渇いていく――。
いや、飲めば飲むほど心が渇いていくと云う方が正しいのか?
しかしカラダが求める渇きを沈める為に私はもう一本、冷蔵庫から飲み物を取り出す。
プルタブを摘むと充満していたガスが抜け、液体が喉を通り抜けた。
「ふぅ……」
私は仰向けに寝転がると、ゆっくり目を瞑る。
さっきまで見ていたテレビからは、若い女の子たちの楽しそうな声が溢れ出ていた。
それを聴きながら、私はゆっくりと彼女達の世界への扉を開く。
其処では私だってピッチピチの十代にだってなれる。
私の記憶と彼女達の現実を上手に擦り合わせた今、この瞬間は私も彼女達の一員だ。
毎日の忙しさに忘れそうになる青春時代の思い出。
それを少しずつ彼女達と一緒に触れてくる。
そうする事で私は、ついさっきまで感じていた渇きを潤す事ができる。
その潤いが頭から足の先まで余すところ無く巡り切ったのを感じると、私はゆっくり目を開いた。
現実の私が充実していない訳では無い。
こっちはこっちで忙しいながらも毎日が楽しい。
けれど一度この世界の扉を開いてしまうと、病みつきになってしまう。
最初は自身の妄想で悶々としていた。
けれど、ほろ酔いのまどろみの中で耳からの情報に身を委ねると世界に溶け込む事ができる事に気付いた。
以来、この魅惑的な世界とありふれた現実を行き来するのが楽しくて仕方ない。
そうする事で、私の毎日にほんの少しの彩が加えられていくのだから。
今はまだ弱小プロダクションの765プロ。
けれど、きっといつかウチからもドラマに出る様なアイドルが出てくると信じてる。
そうすれば私も、その娘達と同じ世界で一緒に青春を謳歌できるはず。
その時の私の姿はどんなのが良いだろう?
やっぱり同級生だろうか? それとも学校の先生?
春香ちゃんが仲の良い友達で、律子さんが学級委員、千早ちゃんはちょっと嗜好を変えて恋敵なんて面白いかもしれない。
今からまどろみの世界で一緒に過ごす毎日に、ついつい思いを馳せてしまう。
その為にも……。
「プロデューサーさん! どうかみんなの事を宜しくお願いします!」
私ひとりしか居ない部屋で私は渇いた音を響かせて、プロデューサーさんを拝んでみる。
お供え物が無かったら叶わないかも知れないので、私は冷蔵庫からビールを持ってきた。
モチロン返事なんてないし、伝わる筈も無い。
神様でもなければ仏様でもない。
だからコレは私が勝手にお願いしてるだけ。
勝手にお願いしてるだけだから、私の胸の内に秘めておく。
でも、きっと大丈夫。
だってプロデューサーさんは、社長が直感で選んだんだから――。
END
難しい小鳥さんの青春をアイドルたちに重ねたのはうまいなと思います。
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無印小鳥とSP小鳥の違いについて考えてしまった。私と小鳥とスリスリ、みんな違ってみんないい。音無女史は深淵であり、覗きこむときまた小鳥もこちらを覗き返しているのだった(なんのこっちゃ)
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もしかしたら、僕らが思っている以上に、小鳥さんは自分の十代になにかやり残したことがあるのかも知れない。だからこそ、小鳥さんは事務所に集う原石のような彼女たちの目映さに自分を照らして、幸せであって欲しいと願うのかも知れない。例えそれが、今はまだ幻想の彼方であっても、必ずプロデューサーが現実にその輝きを引き摺り下ろすことを、彼女は常に祈っている。その祈りに、何か名を付すことなどできないのだろう。そんな虚しさと切なさを感じました。今夜はビールだな。
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よい裏方さんですね。このお願いには、Pも発奮せざるを得ない(笑)
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自分以外にも小鳥さん書いた人がいてほっとしました。恋敵が美希だったら奇跡の偶然だったのですが。
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読んだプロデューサーさんに頑張ろうと思わせる、正しく二次創作、ファンフィクションだったと思います。小鳥さんは大人の淑女として妄想の中で青春を謳歌しなおしているようですが、生き生きとするその姿は小鳥さんがまだ心は青春時代の延長上にいる乙女のように感じさせられます。
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小鳥さんのお願いと、青春時代への邂逅は近しいものがあるのかなあと思いました。字数制限以上に話を広げても面白い題材かも。
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P「拝んでもいいですけど巡礼と称してストーキングはやめてください」小鳥「半年後の私の方に言ってくださいよ」
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こういうお話には弱い。非常に自分好みの作品でした
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小鳥さんの妄想システム(?)の仕組みのような印象を受けましたw またなんとなくアニメの小鳥さんの顔が浮かんできました。
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小鳥さんの楽しい妄想の時間ですが、どこか事務所の皆を応援するような感じなのが小鳥さんらしくていいなあと思いました。
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