【kiss your future】



 ――これからも私は、ずっときみのとなりにいるよ。
 鮮やかな未来で夢見る春に咲いた白いカーネーション、お願いだから受け取ってください!



 桜舞い散る坂道を、ひとり歩いた。
 卒業式なんかいらない。さよならも言いたくない。それだけで、たぶん私泣いちゃうもん。
 いっぱい友達と笑って、ダンス踊って勢いよく転んだり、たくさん思い出がありすぎて数えきれないよ。
 春香の好きにやればいい――そう笑顔で見送ってくれたクラスメイトのために、絶対アイドルになりたい。
 青空に描く空想のスケジュールは予定ぎっしり、夢に向かって駆け出すひとみはきらきらと碧色に輝いてた。

 私ね。夢見がちだって、よくからかわれるんだ。
 春香は妄想好きだよねとか、すぐノリで歌ってしまうあたり、そんなに間違ってないのかな。
 夢へ逃げ込んでるのかもしれない。でも憧れてるだけじゃだめだって、がむしゃらに頑張ってるよ。
 もちろんレッスンはつらいし、うまくできなくて泣いちゃう時もある。それでもめげず、きみを目指す。
 だって、ね。それは叶うはずの夢だから。手を伸ばせば、花開く夢。きみと私の、とってもたいせつな夢。
 すてきな未来が必ず待ってるって、歌やダンスを見聞きしてくれたひとみんなに、大きな声で伝えたいの。
 夢は叶わないから見ちゃだめ――それはうそだって何度でも言い返して、いっとうの勇気に変えてみせるよ!



 桜前線が過ぎ去る間に、だいぶ前髪も伸びちゃった。
 ディスプレイ越しのきみに伝えたい想いは、私の心でコトコト高鳴ってる。
 みんながしあわせになれるうたを歌いたい。でもね、あなたの記憶で永遠の面影になりたいとも思うんだよ。
 今も忘れない。ふと私の夢の『はじまり』を告げたきみのやさしい声は、セピア色の世界に淡い蒼を足した。
 夢や希望で咲いた小さな花は、この髪に結んだリボンみたい。きれいに咲き誇るまで、待っててくれるかな?

 ふわり桜の彩りとほのかな春の香りを、きみが見てる未来に添えてあげる。
 加速していくラストシーン。繋いだてのひらに導かれて、在りし日の私に帰ろう。
 きみだけのシンデレラになりたいの。静まり返る放課後の教室で、きみとふたりくだらない冗談で笑い合う。
 そんな夢を、見ているんだ。これからも、いつまでも、ずっと……ひとり見上げた桜に、緋色の恋を憂いた。
 春空に祈りをこめて、そっと想いを馳せたら、私が編んだ虹色のメロディー、きみの街まで聴こえるかしら。



 透明なきみ。
 宛て先のないラヴレター。
 どこにいるの? きみはどこにいるの?
 ずっとそばにいてくれてる気がするのに、なぜかきみの声は届かない。
 それでも、歌うよ。きみのための、ちいさな恋のうた。いつかきっと、また会えると信じてるから。
 桜並木の隅っこ、ひとりで笑ってる。強がってるんだ。きみといっしょにいたくて、きらり涙がこぼれた。

 ――ありがとう。私の夢をくれたひと。
 はじめてのキスは、親愛なるきみの未来に捧げます。

fin.


 なんかこう、心の何処かで「待ってましたっ!」と快哉を上げてしまいました。階段を登る、いや、登らされる先に、春香は自分が輝くための夢を描く。今はもう、目の前にいない「彼」の中の、美しい思い出であるために、何より、自分が輝くために。だから、そうか。強がって笑いながら、心の中で泣きながら、それでも未来へ向かって春香は託すんだ。メッセージを、最初のキスを。そうか、お前さん健気だな、何なんだよこのメインヒロイン、マジメインだよ。そんな感想。いやー、なんかやられたーw

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 詩の印象を受けました。

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 「ちいさな恋のうた」と作中で言及も行われているので、このSSではおそらく、意図的に歌詞的な文章が書かれているのだろう……と、ひとまず考えさせてください。歌詞そのものではないのでしょうけれど、春香が書いた歌詞の草案のような文章、としての作品でしょうか。青空に描く空想のスケジュールは予定ぎっしり、夢に向かって駆け出すひとみはきらきらと碧色に輝いてた≠ニか、それこそきらきらに乙女回路全開で最初読んだときは変な笑いが出たんですが(褒め言葉)、妙なリズム感と文章のブロック構成で、これこのまま弾き語りとかできそうだ――と思った瞬間に認識が変わりました。読み手が恥ずかしくなってしまいそうな勢いの装飾も、歌詞(あるいはその下敷き)というような前提で考えると、徹底された計算の産物なんじゃないか――とは思ったんですが、勿論そうでない可能性もあるわけで、しかし、乙女チック全開な文章によるキャラクター表現が徹底されていることに変わりはないので、「春香さんマジ女の子!」と賛辞を送らせてください。

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 所在不明の二人称で書けば青春スメルが最大値をとる、という本作で示された事実から無意識に目を背けていたのは、真夜中のラブレターの経験のせいではない、と思いたい。

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 かなり屈折気味に見られた春香という印象。この人が書く普通の文章見てみたい気もする

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 脳内春香さん。ここまで弾けるなら小鳥さんの方が適任じゃ?

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 透明感のある文章は大変魅力的なのですが、ちょっと状況がつかみにくい……かな……

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 春香さん視点の、画面の向こうの「プレイヤー」に向けた作品、ということでいいのでしょうか。一年で終わってしまうアイマス世界の、その中でも春香が「等身大に生きている」話というのはとても救いに満ちていて暖かい気持ちになれます。(良い意味で)背中が痒くなるような表現がとても春香らしく、また「小さな恋のうた」というように、春香がうたっているような気がする作品でした。

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 詩のように、一定のテンポで進む物語が綺麗です。 ・・・たひりさん、なのかなぁ・・・?

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 まるで春香作詞作曲の淡く切ない青春って感じですね。作中の「きみ」が読み手みたい。この乙女全開SSがどんな意図で書いてるものなのか気になります

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 これは良い歌ですね。綺麗な言葉を選んで編み上げた、とても綺麗な歌物語だと思いました。

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 もう少し歌かキャラクタかのどちらかに振って欲しかったかなと思いました。個人的な希望はもちろんキャラクタ。

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 「きみの名は」 春香にこんなにも思われている「きみ」とは一体誰なのでしょう。ディスプレイのこちら側の我々なのか、それとも、他のアイドルなのか。いずれにしても、春香の恋心が切ない詩的な作品です。

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 青春らしさは高くて、春香らしさは低いのが、惜しいというか残念。



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