【ラブレター、ラブレター、ラブレター。誰に宛てても私に届くラブレター】



 朝起きると亜美が二人になっていた。

「おはよ、真美」
「あ、真美おはよ」
「えっ」
「えっ?」
「そゆのは事務所でやろうよぉ」
「真美こそ止めよ」

 わぁわぁと言い合う。でも亜美は亜美で目の前の亜美も亜美らしい。
 どしよ? 誰にも言えないね。信じてくれないよ。
 どうしよっかでジャンケンポン。今日は亜美が髪を真美結びに決定。
 モノマネはバレなかった。

「原因を探そ」
「昨日のせいかな」
「かな。真美泣いてた」
「なんでだろ」
「分かんないの?」
「うん。亜美も知らないっしょ? 亜美だし」
「……うん」

 寝る前に口ゲンカをして、ぼろぼろ泣かれた。分からない。亜美は、真美とずっと一緒だと言っただけ。
 でも心当たりはもう無い。で、亜美が二人の心当たりはゼロ。話はグルグル回る。
 寝る前に明日のジャンケンポン。また、負け。



 次の日も負けた。その次も負け。真美の日が多くなる。
 事件の手がかりは見つからず、ズルズル続く真美ゴッコ。
 たまらなく嫌。
 真美は好き。でも亜美は真美じゃない。

「決めよ」
「何を?」
「どっちが亜美なのか。うらみっこナシで」
「……いーよ」

 もう一人の亜美がコインを持ってくる。女の人の横顔。
 こっちが表。……どっちに賭ける?
 裏。今の生活をひっくり返す。

 金色が跳ね、手の中に吸い込まれる。綺麗な人がそっぽ向く。


 そして亜美は真美になった。





――亜美達はずっと一緒。だって双子だもん!





 そして私は、真美になった。
 賭けに勝った亜美は輝いていた。トップアイドルへの道を彗星のように駆けていく。
 私は輝けなかった。心の名と呼ばれる名の違いか、一歩引いてしまう。
 双子だと表明した今じゃ、添え物だ。妹想いの心優しい真美。

「結婚おめでとうございます。義兄さん」
「いや、戸籍の上じゃ弟」
「ずっと兄ちゃんと呼んできたんです。義兄さん、と」

 亜美は、いや亜美に化けた真美は、どこまでも綺羅星で。十六歳になるとすぐに結婚を発表。
 真美が亜美のフリをしてるのは自然と気付いた。何故とは聞けない。理由を求めて真美の背中だけを見てた気がする。
 背中が二つに増えた。それでも何も出来なかった。

「結婚おめでとう。そしてゴメン」
「なぜ謝るの?」
「分からない。亜美のフリを始めた理由も全然。だから」

 いつかのコインが取り出される。受け取った。両面が女性の横顔。

「真美ね、嫌だった。双子双子と言われること。真美は真美で、真美で一人の人間なのに。亜美までそう見るから」
「その、復讐?」
「気付いてほしかっただけ。でも時間切れ、ね」

 表は裏で裏は表。しかし表と裏は同一ではない。だが私は同一と扱った。
 私は私しか愛してなかった?
 純白のドレスが離れてく。割れるような音楽の下で指輪の交換。振り返った瞳は澄んでいた。
 真美の姿がぼやけ、光が一面を包む。
 さようなら。そう、誰かに言われた。





<恋の、終わり>


 ……別の意味で、やられましたw くっそう、そう書くかそう来るか、うわぁ考えもしなかったよちっきしょお!w 確かに無印だと、真美は真美として振る舞えない、そういうジレンマを「自我」と言う局面から書く、なぜなら思春期とは幼少期とは異なる意味での「自我の芽ばえ」の時期でもあるから。そうだよ、そうするよね、その手がうわあ、もういいよ、全面公開された時に真横に並ばなかっただけセーフだと思うことにするぁ!w お見事でした。

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 素晴らしく面白かったです。「義兄さん」のくだりは初め意味がわかりませんでしたが、理解した瞬間にテンションが最高潮まで一気に駆け上がりました。

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 スタートでどっちがどっちとわからなくなったもので、どう感情移入すればいいか(==;

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 亜美真美だからこその作品だなぁと思いました。すごかったです。

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 エンドマークまで含めての文章、わずか千文字程度で書ききる数年、恐れ入りました。

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 二回読んだけど理解できなかった……。1200字ではこれが限界だと思うので、もう少しこの二人を表現する文章が読みたくなった

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 美しくも残酷な……青春でした。それでも、彼女らの幸せを願わずにはいられません。

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 1200字という限られた字数に、これほど濃密に時間と感情と描写とを詰め込んだ作品ができるものなのかと感嘆しました。それでいて綺麗にまとまっているのは圧巻の一言です。亜美と真美の思春期と共に来る「同一性の喪失」をこのように展開させるとは……最後まで読み、戻ってタイトルの意味を考えて思わず「なるほど」と唸ってしまいました。

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 濃厚なストーリー性に息を飲みます。 文章の長さは同じはずで、話の流れだって特別急ぎ足じゃないのに、凄いなぁ。

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 1200字の中にめいっぱいストーリーを詰め込んだ意欲的な作品だったと思います。わかりにくいのは素なのか、あえてそうしているのかはわかりませんでしたが、その辺もたぶん、この作品の魅力なのでしょう。なんて。

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 1,200字という制限の中で見事に亜美真美のテーマを書き切ったことに脱帽です。子供ならではの無邪気な残酷性のようなものを感じました。

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 面白かったです。ただ、あの亜美真美にしては、達観した思考と口調があまりに大人すぎている気もする……



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