【夜はこれから】



深夜。
ネオンが輝く時間帯のコンビニにて、悩む少女の姿があった。
「……うーん」
ポニーテールの少女は我那覇響。765プロに所属するアイドルだ。
どうやら悩みの種は、目の前の商品棚に置かれているジュースらしい。
カルピスやコーラ、果実系を筆頭に様々なジュースが置かれている。
普段であれば適当に手に取ったものを購入するのだが、今は少し勝手が違っていた。
「なあ春香ー。どれ買ってけばいいのかなー」
結局決めきれなくなって、スナック菓子コーナーの方を向きながら声をかける。
ポッキーやポテチを吟味していたリボンの少女――天海春香――が、その声に反応して顔をあげた。
「え、どうしたの?」
「いや、ジュース。どれ買ってけばいいのかなって」
「えー?」
首をひねりながら、春香は響の所に駆け寄ってくる。
その勢いのままに、カルピスとウーロン茶の2リットルペットボトルを手に取って響に差し出した。
「別に適当でいいと思うよー。結構何でも飲むし」
「そ、そうかー?」
「うん。だから自分が飲みたいのを優先すればいいと思うよ。こういうのって買い出し組の特権だし」
「そりゃそうだけどなー」
買い出し組と聞いて響が最初に思い浮かべたのは、主に罰ゲーム的な形でのお使いであった。
ゲームの敗者に買ってきて欲しいものを頼み、買い出し組は全員の要望をメモしてから買いに行くのだ。
だから、買うものは二人にまかせるわー、と言われてもなんだかしっくりこなくて、結果ジュースごときに頭を捻っていたのだった。
「意外だなあ。響ちゃんって、もっとこうスパーンって決めそうなイメージだったんだけど」
「いやスパーンって」
「もしかして、緊張とかしちゃってる?」
「んー、かもなー」
にやにやしながら聞いてくる春香に、響は頷きながら答えた。
響は765プロに所属しているが、その一員となったのはつい最近のことだ。
それまでは961プロに所属しており、765プロとはオーディションごとに競い合った仲だった。
様々なゴダゴダの末に765プロに移籍してきたのだが、まだ日が浅い事もあって深く馴染んでいるとは言い難かった。
そんな響が春香とともにコンビニで菓子やらジュースやらを買い漁っているのは、春香に巻き込まれる形で誘われたためだ。
事務所へ通うのに結構な時間がかかる春香は、スケジュールの都合上終電を逃す事がたまにある。
そんな時は誰かの家に泊めてもらっているのだが、静かに寝床を借りるだけなんてことはなく、夜通し騒ぐためにこうしてコンビニで物資を整えているのだ。

「ありがとうございましたー」

店員の声を背に受けながらコンビニを後にし、二人はビニール袋を手に持ちながら夜道をのんびり歩いていた。
行先は同じ765プロに所属する三浦あずさのマンション。
春香はそこに泊めてもらうために、響は春香に誘われて夜通し駄弁ったりするために。

若者たちに夜はない。
寝る間を削る生き方は彼女達の特権なのだ。

<fin>


 すごくあるあるって感じのお話。 最後の二文が青春を見事に表しててすごく素敵。

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 このくらいの年頃の子たちの微妙な距離感、気遣い、気後れ、生活経験の違いから来る些細な認識の違い。そういったものが感じられ、なんてことはない一幕と思わせて様々なものが含まれている作品かなと感じました。きっと夜も寝ている暇なんて無い彼女たちは、翌日うつらうつらしながらレッスンに励むのでしょうね。

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 「SPらしさ」+「青春らしさ」が出てるのが良かったです。 ぱじゃまぱーてぃ!

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 響が765プロに馴染めないでいる、という書き出しなのにラストの着地点がズレているように思いました。ちょっと残念。

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 響はぼっちかわいいというのが通説ですが、響の醍醐味が響いじめではなく、響のちょっとした不器用さにあるからだよなあと気付かされました。

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 春香の話に響が目を丸くして、あずささんがあらあら〜、と笑う……そんな光景が、鮮やかに脳裏に再生されました

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 競い合った間柄の二人。すべてが終わり、ゴタゴタのうちにいろんなことに巻き込まれていく響の戸惑いと、平常運転よりそれ以上、響に対して恐らく気を使っているであろう春香の二人が見せる、どうと言うことのない日常風景。でもそれが、響にとっても春香にとっても、本当の意味で「日常」になるにはもう少し時間が必要で、もっとお互いを知らなければいけなくて。ライバルから友達へ、競争相手から同僚へ。でももしかしたら、二人はもう一度ライバルになるかも知れない。そんな夜更けの一瞬が綺麗でした。

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 響と春香の距離感がとても心地良いというか、「うん、そうそうこうだよね」って思えるような感じで素敵でした。これからお部屋で始まるだろうガールズトークに期待しちゃう感じのSSでした。

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 SP世界線ならではのお話ですね。響の性格がすごくそれっぽいと感じました。最後の一文は沁みるものがありますね。

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 夜更かし前の高揚感が学生ならではですね。このあと三人でお喋りに興じるのかな、なんて考えました。



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