【I My Me Mammy】



「それじゃあママ、あたし先にステージ袖で待ってるね!」

 元気に走りだした愛の背中を見送る。家では当たり前の景色だけど、それがドーム球場の楽屋口だと思うと少し不思議な感じね。
 親子でジョイントライブなんてどういった風の吹き回しかと、マネージャーのまなみが驚いていた。一体、私はどれだけ女王様で唯我独尊だと思われているのかしら。これでも人の親なのだけど。

 でも確かに、若い頃の私はいつも一人だった。デビュー当時はライバルという設定の同期がいた気もするけど、そんな子はすぐに私に付いていけなくなってドロップアウトしてしまった。
 ついでに、意地悪をしてくれた先輩もいた気もするけど、そんな人はすぐに私に追い抜かれて愚にもつかない悪態だけ残して去っていった。
 そうして私だけが勝ち続けて、私だけしか残らなかった。上にも隣にも誰もいなくて、ただ下を見ると豆粒ほどの誰かさんがやっと見える程度。そんな世界を私は生きていた。

 それが全て不幸だとは言わないけど、つまらないとは思った。誰にも侵されないけど誰にも触れることのできない世界はとてもつまらなくて退屈だった。これが私の青春時代だなんて思いたくなかった。

 ……じゃあ、愛はどうだろう?
 考えるまでも無いわね。何故なら知ってるもの。愛の隣には沢山の仲間がいるって。それは時に同期のライバルだったり、憧れの先輩だったりするのだろう。時に大きな支えだったり、大きな壁だったりしたのだろう。そんなの、きっと面倒くさいだろうな。だってあの子、何かある度に泣いて帰ってくるんだから。でも、それなのにあの子ったらすごく楽しそうで生き生きしているの。「青春だなぁ」なんて私でも思っちゃうくらいに。
 そんな愛を見ているとね、なんだか……

 「羨ましいな」

 なんてね。こんなの私らしくないかな。
 けれど、娘を持つ母親って得なのよ?

 愛が経験したことはどんなことでも私にとって新鮮で、それは私が経験したことと似ていても全く違うことで。愛がいなかったら私はきっと退屈でつまらなかったあの時代を思い出しては鬱陶しく蓋をしていただけだったかもしれない。でも私には愛がいてくれた。愛が生まれてからは退屈だった日々が全て宝物に変わった。そう、今この時だって。

「そろそろ時間ね」

 ステージ袖。
 出番を待つ愛の肩を叩くとすっかり逞しくなった笑顔を返された。「負けないからね」ですって。キラキラと青春漫画の主人公みたいな瞳して、随分と言う様になったわね。……面白い。その喧嘩、買ったわ。

『会場のみんなー!この超絶パーフェクトスーパー女王、日高舞にひれ伏しなさい!曲は「I Want」!!』

 さあ、私もババア臭くて湿っぽいこと考えてる場合じゃない!
 気力回復ほんの一瞬、栄養ドリンクまだ不要!私の青春なんてこれから100万回はやり直してみせるわよ!
 ほら、愛もポカンとしてないで歌いなさい。

――認めたいの あなたを 私のやり方で――


<fin.>


 青春まっただ中の子どもをもつ親もまた、じぶんの過ごした青春について思いを馳せちゃうものなのかな。うーん、のすたるじあ。

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 愛ちゃん大好きな舞さんが大好きです。

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 舞さんのI want! !! 聞いてみたい! 輝いている舞さんも、まさに青春ですね……

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 SSにアイマス曲を使うというのはある意味スペシウム光線、王道中の王道ですが、こういう、歌とキャラとの接点が全くないところから取り合わせる組み合わせ方は想像もしていませんでした。しっかりハマっているように思います。お見事!

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 ふはは、こいつは痛快だ! 天上天下唯我独尊の舞さんにとって、愛ちゃんと言うカメラを通して透けて見えるシーンは、きっとすべて一度自分が経て来た道のりの果てに辿り着いたものと透かして見ながら、その差分を楽しんでいる。愛ちゃんは今間違いなく青春真っ盛りだけれど、「私のやり方で!」青春をリプライズしてやろうじゃないの、と言う舞さんのパワフルさには、プラスだろうとマイナスだろうと起きたことすべてをエネルギーにする力が有る。だからこそ、彼女は女王として君臨しているんだろうね。愛ちゃん、頑張れよ!

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 舞さんと愛ちゃん母娘を見るたびに、旦那さんはどんな人なのか気になります。

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 日高親子いいよねえ

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 舞さん愛ちゃんそれぞれの青春が良いですね。この二人は互いを輝かせ合ってる親子だなーと思います。

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 愛・舞・まなみのトリオは良いものだ。むしろ満を持してまなみさんが青m@sに登場したことに大歓喜である。やったねまなみん!!!

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 アイドルだったけれどつまらない青春時代を送った舞さんと、今まさにアイドルとしての青春を謳歌している愛ちゃん(&舞さん)の対比が良いですね。時が経って謳歌する青春はとてもまぶしい。実に最強素敵な舞さんです。

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 親が子に自分の夢や希望を託すのは現実でもよくあるお話。それを周囲がしたり顔で傲慢といい、巻き込まれた子を可哀想というのもよくあるお話。しかし、子どもに何かを残せる親というのはとても幸せで、親に憧れ駆け出して、いろんな人に支えられ、輝きを手に入れた子どもはとてもとても幸せで、その結果として親も子も同じ場所に立てるというのはもう幸せの絶頂なのかもしれない。親子っていいなぁと考えさせられる作品でした。

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 舞さんには経験できなかった青春、「羨ましいな」と思う彼女の心はきっと本心なのでしょう。それでもそれを吹き飛ばしてしまう、これぞまさに「日高舞」という存在なのだと思います。



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