【オレンジ】



――貴方は今、好きな人がいますか?


という問いに対して、明確な答えの出せない僕。

恋という物に興味がなかったわけじゃない。
ただ、最近までの僕はとても特殊な環境にいたせいもあり
そちらに気を回す余裕がなかったというか……。


「おい秋月、見ろよこのグラビア!」


それは、ある日の放課後の事。

夕暮れのオレンジの日差しが差し込む教室の隅に集まり
何かに釘付けになっていた同級生の男子達に声を掛けられた僕は
彼らの差し出した週刊誌の1ページに
これまた釘付けにさせられてしまった。

「見ろよこの胸!このふともも!」

そこに現れたのは、僕も良く知る同世代の女性アイドル
『桜井夢子』ちゃんの水着グラビアだった。

「ちょ、なんてものを教室で見てるんだよぉ〜!」

普段、彼女とプライベートでもよく一緒に時間を過ごす僕でも
さすがにいきなり水着の写真を突きつけられたら
赤面せざるを得ないわけで。
というか……普段は意識してなかったけど
こうしてみると夢子ちゃん、凄くスタイルが良い。
特に、胸……。

いやいや!駄目だよこんなの!
邪な気持ちで夢子ちゃんを見ちゃ駄目!
でも……くやしい!目が離せない!

「この子いいよなー」

「最近かなり可愛くなってきてるよね」

「今イチオシでしょ!」

綺麗な肌色とオレンジのビキニのコントラストに目を奪われながら
同級生達の談笑が耳の中をすり抜けていくような
そんな気恥ずかしさと、くすぐったさ。

「秋月もそう思うよな?」

そしてふいに質問を投げかけられ、はっと我に返った
この時の僕は、相当間抜けな顔をしていたに違いない。

「そっ、そうだねぇ…可愛いねぇ」

ああそうさ。この答えに嘘はない。
夢子ちゃんは可愛いよ。それこそ、掛け値なしに。

でも、どうしてなんだろう、この気持ち。
自分以外の人間が、彼女の魅力に気づき始めた。
小さな、それはとても小さな世界ではあるけど
世界が、彼女の輝きを認識し始めた瞬間。

僕の心の中に、今までになかった
ある一つの感情が突然……芽生えた。


そして帰宅後。
帰り道のコンビニで心臓をバクバクさせながら買ってきた
あのグラビアが載った週刊誌をビニール袋から取り出す。

「……今、イチオシ。かぁ」

ぼうっとしたまなざしで、再びオレンジのビキニに釘付けになる僕。


――貴方は今、好きな人がいますか?


という問いに対して、今でも明確な答えが出せない僕。

でも、何かが変わりそうな気がする。
この予感、この胸の高鳴り。
「こいつ」の正体が何か分かった時。
僕にも、答えが出せるような、そんな気がした。

カシャッ。

その日から、僕の携帯の待ち受けにこっそり居座った
少しピントのずれた、オレンジの女神様。
せめて、後もう少しの間だけ。


僕だけの、君でいて。


(終)


 感情移入度120%である。。やはり涼ちんはいっぱしのオトコだぜ。。

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 ドストレートのド青春。 オレンジなのに青いなあもう!

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 ああもう甘酸っぺぇ!! 甘酸っぺぇ!! とっとと幸せになりやがれこの野郎!!(笑) 実に甘酸っぱい青春、ごちそうさまでした。

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 もちろんそのグラビアは部屋で(以下検閲により削除)

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 りょうゆめごちそうさまでした!

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 うん、夢子ちゃんもそういう仕事で地道に名前を売っているんだよ。文字通り自分の夢を掴みに行くために、天井に向かってこれでもかって手を伸ばしてる。それはいずれ、少しずつ人々の中で話題となり、広まって、やがて「桜井夢子」は、誰のものでもない紛れも無くアイドルとなる。……良いのか、秋月? ほんっとーにお前、それで良いのか秋月。そんな自問と煩悶を繰り返す。時間が経てば、「僕だけの彼女」ではなくなるんだ。急げ少年、時間はないぞ! なんつってなw

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 涼ちんマジ草食系。

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 男だもの。

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 ボーイミーツガールなりょうゆめが甘酸っぱくてやばい。恋心とか純情とか自意識過剰エッセンスとか、まさしく正しい青春ストライクである。涼ちんいいぞおおお!

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 この涼ちんは無性に青くさくて良いっすね。

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 わかる、わかるぞその気持ち!

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 読んでてこっぱずかしくなるけど好きです

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 普通に男の子の話題に混ざっている涼、というところに何故か違和感を覚えてしまいましたが、考えたら年中告白されてるわけでもないよなと思い直しました。普段は涼もきっとこんな感じなのですね。形にならない気持ちの話。恋とか愛とか、若いうちは通りすぎてみないと分からないことも。それでも形にならないままで踏み出してみようというのがとても青春。きっと涼なら後悔のない答えを出してくれそうです。

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 このですね、涼がかもしだす夢子ちゃんとの距離感が絶妙で、すごく好きです。恋する男の子の可愛さみたいなのがすごく良いです。

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 これはまさしく青春ですね、掛け値なしに。涼の心の揺れにニヤニヤしてしまいます。携帯の待ち受け、きっと夢子にバレるんだろうなあ、とか妄想が膨らみますね。ちなみに蛇足ながら、夢子の胸に着目した涼には立派におっぱい星人の資格があることを同業者として補足しておきます。



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