【きづかぬうちに】
今や学校の体育館は舞台の上で踊る自分の従姉――秋月律子のファンになったみたいに盛り上がっている。
高校に入って初めての文化祭、その実行委員となった僕――秋月涼は衣装に着替え、ステージ袖にいた。
ステージのすぐ下にいる彼女――文化祭の実行委員長で、誰よりもこのお祭りを成功させたくて、そのために一生懸命がんばってきていて、話してみると実は女の子のアイドルが好きで。僕はその子のためにもっと盛り上げたくて、今からこのステージに立つのだ。
「もうひとり、アイドルの子が来てくれたわ」
沸き上がる歓声にすくみ上がってしまいそうになる。
学校には秘密にしているのにいいのだろうか。いや、大丈夫だ。なんとか自分に言い聞かせて、そこから飛び出す。
あの子に目をやると、とても喜んだ顔をしている。その口が「あきづきりょう」と動いた気がして、鼓動が早くなった気がした。
「一生懸命がんばりますっ」
律子姉ちゃんが舞台袖に下がり、僕だけが残された。
バラバラの合いの手を自分で歌いながら手拍子をすることで修正していく。拍手の音がそろうだけでも気持ちよくて、自分の顔がほころんでいくのがわかった。
「かわいい!」
「涼ちゃん!」
なんて声をかけられたので、手を振ってそれに応えていく。
客席の彼女は次の歌が始まっても合いの手が完璧で驚かされた。彼女に向かってダンスの決めポーズをしてみせると、しっかり返ってきたのだからなおさらだ。
「次は、ふたりでー!」
マイクとともに律子姉ちゃんが戻ってきてくれた。
今日歌う曲はもう残りわずかだ。
この文化祭のため、
見てくれている人たちのため、
そして、最前列にいる彼女のために、
僕は最後まで楽しませたいと、律子姉ちゃんとともに精一杯の歌とダンスを捧げた。
コンサートは終わり、控室となっている教室で、
「おつかれさま、涼」
「律子姉ちゃん。おつかれさま」
僕たちは水のペットボトルで乾杯した。
そこに彼女が入ってきた。ファンになりましたと目に涙を溜め、律子姉ちゃんと僕に握手を求めてくる。
目の前なのに、同じ実行委員だなんて気づかれていないみたい。
差し出された手を握り返すと、こっちがアイドルと握手したくらいに、舞い上がりそうになった。
そこで気づいてしまったのだ。どうして彼女が気になるのかを。
彼女になら自分の正体を言ってもいいかもしれない。
ふとそう思いつき、僕が口を開いたとき、部屋の外から男子生徒の声で彼女の名前が呼ばれた。この子を探していたらしい。
うれしそうに振り返るとともに、彼の名前を呼んだ彼女の声。
今までなら気づかなかったニュアンスを、僕は気づくことができるようになってしまっていた。
彼女たちが出ていくまで、僕は笑顔でいられただろうか。
「今晩打ち上げしよっか」
律子姉ちゃんが少し乱暴に僕の頭をなでてきた。
今は目をこするのが忙しくて、うなずくことしかできなかった。
-きづいたときに-
感動しました・・・これいい、凄く
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タイトルと締めの言葉が絡んでて面白かったです
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青春は時に苦い味……その苦い味が、いつか懐かしく思い出せる日も来るよ、涼! ということで。ただ、最初のあたりで若干誰が誰なのかというのがわかりにくかったのがやや残念です。
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涼ちんマジギャンブラー。バレたらどうするつもりだったんだろう。
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涼は色恋話が本当に似合いますねw ところで、委員長の子は涼のことを「気づいていた」と感じたんですが実際にはどうだったんでしょうか。
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エンドマークの「涼」もとい「了」が入るべきところが組になっているのですね。
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秋月涼には失恋がよく似合う、と思ってしまうのはなぜだろうかと、そんなことを考えてしまいました。男子に言い寄られて逃げまわっていて、びっくりするほど鈍感で、しまいには精神崩壊して女の子。そういうインパクトのある部分に目がいってしまう涼ですが、実は凄くオトコのコなんだということをストレートに伝えてくる作品だなと感じます。一人の女の子に一端に恋をして、ドキドキして、張り切って「最前列にいる彼女のために」なんてある意味ひとりよがりな頑張り方をして。告白する前に失恋してしまうのも、それでもカッコつけて意地張って笑ってるのも、最後にぐしゃぐしゃと泣いちゃうのも、とても思春期のオトコのコでした。男になるのはまだ先でしょうけれども。
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がんばれ涼ちん
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題とエンドで対にしてるのがよかったです
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涼の話なんですけど、律子が良い味出してる気がしますね
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