【未来地図】



『第一志望:プロデューサー』
『第二志望:アイドル』
『第三志望:進学』

 枠内を一通り埋めてから、ああ、そういえばこれは志望校の調査用紙だったということに気づいて消しゴムをかけた。全く、進路希望調査なんて紛らわしい題をつけるからつい勘違いをしてしまったじゃないか。早く書き直してしまわないと。クラスで調査用紙を提出していないのはもう私だけなのだ。自分だけぐずぐずしているわけにはいかない。模試の日程や内申書の評価は、私一人のために足並みを緩めてくれたりはしないのだから。

「……よし」

 意気込んで、再び鉛筆を握る。つまらないことに時間を取られている場合じゃない。週末に控えたミニライブの準備に、定期考査の勉強だって疎かにはできない。私に与えられた時間は有限で、けれどやらなくちゃいけないことは多くって。人生は選択の連続だ――なんて、もう既にどこかの誰かが使い潰してしまった台詞だろうけど、今私の置かれた状況を端的に表現するならば、その言葉が一番しっくりと当てはまるような気がした。
 そう、私は選ばなければならない。
 やらなくちゃいけないこと――やりたいこと。あれもこれもと手を伸ばして、その全てで成功を収められるだなんて、そんな大それたことは考えていない。天に二物を与えられた天才でもあるまいし、私の手に負えるものは決して多くはないのだ。

『第一志望』

 ならばせめて、私に最も相応しい大学を選んでやろうじゃないか。なんて上から目線で考えはじめてすぐに困った問題が発生した。自分の偏差値に合った学校の資料を、一つも取り寄せていないことに気づいたのだ。これじゃあ志望校なんて書けるはずもない。まいったなこりゃ、と頬を掻く。どうやら私は私が意識している以上に、“この道”にどっぷりと嵌ってしまっているようだった。

「……プロデューサー、か」

 頭に浮かんだ言葉を囁いてみると、誇らしさと、そしてほんの僅かの未練が胸を刺す。
 本当に、これでいいのだろうか。
 大学に進めば、アイドルを続ければ、あるいはもっと他の道があるのかもしれない。
 ううん……もしかしたら、その全てを叶えることだって……

 ――何でもできて、律子はすごい。

 ふと、誰かに誉められた時の言葉を思い出した。
 律子は、何でもできる。
 その評価はきっと間違っていないのかもしれない。どんな仕事や活動もそつなくこなしてきた。それは他でもない私自身の経験が証明してくれる。もしかすると、それこそが私の才能だと評価してくれる人がいるのかも。
 何にでもなれる私。
 可能性に恵まれているであろう、私。
 だから、

「私の、本当になりたい自分は――」

 だからこそ、選ぶべき道は一つじゃなきゃいけないと、そんなふうに思った。
 だってそうでしょう?
 本当に大切なものを一つ、両方の腕でぎゅっと抱き締めたのなら、
 他の何もかもに手が伸ばせなくなってしまうのは、当たり前のことなのだから。

『第一志望:プロデューサー』



 「なんにでもなれる」から、どうしてプロデューサーを選んだのか・・・そんなことを考えてしまう作品でした

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 がんばれ律っちゃん。

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 とても、良い作品でした。今後あなたの書く作品を読みたいです

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 これは2律子の回想という形をとっているのでしょうか。選択と懊悩、それもまた青春の一つの醍醐味なのでしょうね。

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 律子の進路決定は中々難しい題材ではないかと思うのですが、綺麗に纏まっていて驚きました。進学しないこと、アイドルという立場を手放すこと。それでも情熱でもって踏み込むのは、やはり秋月家の血なのでしょうか。自分の限界を知っているからこそ、何でもできることを信じてみる。そして何でもできる秋月律子だからこそ一つを選ぶのだ。そんな複雑な心の動きがすんなりと入って来ました。それから、読みやすい、というか見やすくてネット小説に慣れた方のレイアウトだなということも印象に残ります。

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 オールラウンダーな万能型だけれど特化武器がない、言い方によっては器用貧乏な面のある律子なので、己のそういう面に気づいたときが本当の勝負なのかもなと思いました。読んでて無印準拠でもいけそう……と思ったのですけれど、無印ではそもそもマネージャー希望(のちのアイドル活動中にプロデューサーを目指す)なのでやっぱりこの場合は2に当たってしまうのかな。これだけだと少し掴みかねますが、進路に関して一番悩むキャラは律子なのかも、と思ったりしました。

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 そしてまた冒頭に戻ってエンドレスループですねわかります

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 正解が無いからこそ、進路希望は難しいのかも。律子は特に。



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