【バブルレター】



「亜美ぃ」
「うぇ」
 雨上がりの涼しげな風にゆすられてぐーすか寝ていた所に真美が圧し掛かってきた。ぴったり肌を触れ合わせたまま動かなかった。二人の心音が聞こえるぐらい。あつい。
「真美重い」
「うん」
「どいて」
 やだ、という返事の代わりにきつく体を締め付けられる。こうなった真美はだめだ。多分眠るまでこのままだ。亜美にまとわりついていたタオルケットを引きはがしこれ以上ないってぐらい体を密着させると、小さな吐息がぽつぽつ頬へ降りかかってくる。
 雨の日特有の、頭をぐしゃりと押しつぶされるような重さと湿り気のある空気は真美に合わないのだ。勿論亜美にも合わないんだけど。ほら、普通慣れるじゃん。
 でも真美は慣れない。こうして亜美を抱き枕にしてふるふるまつ毛を瞬かせている。その体を優しく揺らした。
「また怖い夢でもみたのかなぁ真美ちゃんは。亜美がいないとダメダメだなー」
「うるさい」
「ぐぇえ」
 真美が腕の力を強めてくる。もっと何か言われるのかと思ったけど、依然として黙ったままだった。
 ややあって。
「亜美、さ」
「んん」
「もっとたくさん帰ってきてよ」
 耳に流れ込んできたのは予想外の言葉だった。それだけ言って抱きしめてくる腕の力強さに鳥肌が立った。雨のせいで機嫌が悪いだけなのかと思ったん。でも間近にある真美の表情はとってつけたようなよそいきの笑顔だった。何も言えずに固まってしまった。真美は何か隠していると思った。真美がそんな顔をするのは珍しいことだったから、強く抱かれていた腕の力がひゅるりと抜けて、まるで浮き上がっていくような感覚に陥ったときも亜美はじっとその顔を見つめていた。数秒後に真美が視線を感じ取ったのか小首を傾げて亜美を見ている。亜美が狭いソファの上で肩をすくめると、急に顔が近づいてきた。え、なに。なんて言う間もなくどんどん触れ合う面積が大きくなっていく。驚いて目をつむったら耳元で囁かれた。

「ひまでひまでおかしくなるよ」

 体中にあった熱っぽさが消えて、吹きこんだ秋の風が急速に亜美を冷やしていく。飛び起きるとそこには真美の後ろ姿。台所でおやつを探しているいつもの真美。気付いたら掌は驚くほど湿っていた。前髪がぺたりと額に張り付いている。汗が噴き出していた。いったい何のためかも何のせいかもわからない。だけど、頬を掠めていく水っぽい風が爽やかに感じなかったのは多分亜美も雨が嫌いだからだ。
 網戸で白みかかった窓から空を見上げる。引き裂いたような雲の間に七色の線がくにゃりと腰を曲げているのが見えた。不思議な虹だ。一度見ただけで姿を消してしまった。
 昔の亜美たちなら傘を引っつかんで外に飛び出していただろう。でも走りだせなかった。ソファにもう一度体を沈めて、ずぶずぶ埋まっていく感覚にもう少し身を委ねていたかった。どこか遠くから真美の歌声が聞こえてくる。うつらうつらと意識が遠のいて、とろとろりん瞼が重くなる。


おわり


 んー。いいすねこれ

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 これはすごく力のある書き手さん。亜美真美ものは気合い入ったのが多いですね!

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 何とも言えない不思議な雰囲気の作品ですね。アイマス2で2人に引き裂かれてしまった亜美と真美。少女が大人に変わっていく過程のアンニュイな感じがよく出ていたと思います。

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 亜美でないとできない、佳作だと思います。心理を織り込んだ文体も作品の雰囲気に合っているかと。

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 亜美が竜宮小町として忙しくなってという頃の話でしょうか。タイトルから、泡のようにぱちんとはじけて消えてしまう、一瞬の違う顔が見えたという作品だろうかと考えましたが……。しかし、雨の日の泡は、消えてしまっても水に戻って流れて溜まっていくのではないだろうか、とも思わせられます。亜美に甘えるというか依存しているような真美というのは常道からは外れている描き方ではと驚きました。しかしその一方で「大人と子どもの境界線」上の少女としての得体の知れなさが出ている、ある意味性的な匂いを醸し出している真美に、亜美が置いていかれ戸惑っている節も見え。真美が抱えているのは、二度と同じに戻れないからこその独占欲・或いはそれに似た何かなのでしょうか。どこか頽廃的な感があり、色々なことを考えさせられる作品でした。

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 いい雰囲気。虹のくだりが好きです。昔と変わってしまった双子の様子がじわりと染みます。

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 双子ならではの不思議な雰囲気がしました。忙しくなった亜美と退屈な真美、ずれ始めた二人の複雑な関係が伝わってきます

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 けだるい感じの亜美真美。こういうの好き

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 真美は真美でなんか考えてそうなのがイイ

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 印象にのこるタイトルだったなと気づきました(今更)



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