【私へ】



 26歳の私へ

 久しぶり。って書くのも変かな。でもこの文字を見るのはあなたにとって10年ぶりになるわけでしょ? じゃあやっぱり、久しぶり。
 まさかとは思うけど、この手紙のことを忘れてて、これを読んでるあなたは実は26歳よりももっと年上、なんてことはないでしょうね? もしそうだったら今すぐそこで頬をつねること。
 なんて、どうでもいいことは置いといて。
 どう? 26歳の私。
 元気にしてる? 恋とかしちゃってる? 髪を伸ばしたりしてる?
 ちゃんとトップアイドルにはなれてる?
 はいはい、分かってます。
 このアイドル全盛の時代において頂点に立つことがどれほど難しいかは私も理解してるって。
 けど、それを承知の上で私はこの道を志したんだから。ワクワクした想いしかない。後悔なんてするはずがないわ。
 なんて、どうせトップアイドルになったあなたは今そこで「この頃の私は青かったな」と思いながら笑ってるんでしょ。分かってるって。
 けれどもし。
 もしもだよ?
 もし、トップアイドルになれてなかったとしたら、あなたはこの手紙を読んで悲しい気持ちになってるかもしれない。
 もしかしたら私の選択を悔やんでるかもしれない。
 でもそれは違うよ。
 悔やむ必要なんて無い。
 あなたの姿は、私には想像することしかできないけど、これだけは確実に言える。
 あなたが今いるところは、私が私なりに精一杯走ったからこそ辿り着いたところなんだ、って。
 夢から目を背けて楽な道を歩く人生なんて不幸なことだと思う。
 そんな考えを持った私が駆けた道の先にいるのがあなたなんだから。
 悔やむことなんて無いわ。
   っと。そろそろ撮影の時間だから、ここで締めるわね。
 それじゃあね。
 あなたの行く先に更なる栄光のあらんことを。
 なんちゃって。

                                        16歳の私より










 頬をつまむ指が少し涙で濡れた。
 引き出しの奥から出てきた一枚の手紙。
 怖いもの知らずで、馬鹿で、けれど楽しかったあの頃。
 眩しいなって思っていたら、いつの間にか私は泣いていた。
 でも、冷たくない。この涙は温かい。
 だから私は笑って、この世間知らずに物事を教えてあげないとな、って思った。ペンと、手元にあったリーフレットを手に取る。










 16歳の私へ

 久しぶりね。
 私は現在、アイドルを辞めて765プロの事務員として働いています。
 けれど、あなたが心配するような後悔や悲しみは少しもありません。
 事務所には大勢のアイドルがいます。皆があなたのように夢を見据えて走ってます。
 そうやって走る皆を直接サポートできるのが私なんです。
 私にはトップアイドルになる力はなかった。けれど、そんな私の力を重ねることで皆がアイドルとして成功してくれたとしたら、それは本当に嬉しいことだと思います。
 あなたが思い描いた将来とは違っているのでしょうけれど、
 でも、もう一度言います。
 私にはあなたが心配するような後悔や悲しみは少しもありません。
 あなたと同じように、私だってまだまだ夢の途中なんですからね。
 なんちゃって。

                                        28歳の私より





fin


 手紙形式で過去と未来をうまく繋いだなって印象ですね。時系列を繋げて小鳥さんの青春が一度終わり、(ここからは贅沢かもしれませんが)すでに新しい青春が始まっているようにしたほうが新しさがあったかと思います。

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 青春に年齢は関係ないのです

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 これは非常に面白い形式の作品ですね。予想通りに手紙の存在を忘れていた小鳥さん。けれどその中身は10数年前から一貫していて。「なんちゃって」と誤魔化しちゃうところも変わっていなくて。この作品の小鳥さんはとても魅力的に感じました。 29歳じゃないのかとか恋はどうしたとかツッコミどころはありますけど!(笑)

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 16歳のぴよっさんに28歳のぴよっさんがほっぺたつねつねされて、涙目になりながらも笑っている……そんな光景が、脳裏をよぎり……

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 未来の自分に手紙を書く、というのがとても古式・・・もとい、小鳥さんらしいなという気がしました。バカで世間知らずだった頃の輝きとはまた別の輝きを手にした小鳥さん。青春の喪失は悲しいばかりじゃない。涙を流しながら、心配しないでという返信をする小鳥さんはとても美しい女性でした。小鳥さんは16歳の青春を終えて、28歳の青春をまた始めていくのだとも言えるのかなと感じます。短い文章に小鳥さんの魅力がふんだんに盛り込まれた作品だと思いました。

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 小鳥さんは俺の嫁です。

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 自分への手紙と言えば目を覆いたくなる物の筆頭、青春を過つ自由だとするならまさに青春の聖遺物ですが、そこにあえてピヨちゃんを送り込むことであら不思議、絶妙にきれいな小鳥さんが生まれていた、青春にふさわしい作品だと思います。

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 希望に満ち溢れた将来を書き綴る一方で、夢破れた場合のこともきちんと気にかけている16歳の小鳥さんは、まさにいま、事務員としてアイドルの女の子たちを支えるにふさわしい心配りの持ち主だと感じさせられました。「皆を直接サポート『できる』」という表現にも、28歳の小鳥さんが後悔や悲しみを抱くことなく、事務員としての仕事を心から愛している様子が伝わってきました。すばらしい作品を読ませて頂きましてありがとうございました。

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 16歳の小鳥さんはどんな気持ちで10年後の自分に手紙を書いたのでしょうか。文面からすると既にアイドルとしての限界をみていたのかもしれませんね。

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 妄想のあとの「なーんちゃって♪」が似合う小鳥さんですが、こういう形で「なんちゃって」を使われるとある意味しっくりくるもんだなと再認識させていただきました。なんちゃって。

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 小鳥さんから小鳥さんへのメッセージは、なんだか優しい。終わった過去とは言え、ほっこりしました。

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 きれいな小鳥さんでした

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 小鳥さんは生涯現役で青春を謳歌しているのだ、と言わざるを得ない



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