【茜道】



「――寒い」
 冷たい風が吹きすさぶ夕暮れの街並みを歩きながら自分、我那覇響は誰に向かって言うでもなく独りごちた。
 通っている高校の制服の上にはマフラーにモッズコート、イヤーマフ、スカートの下にはタイツというこれ以上にないくらい防寒対策をしていてもこの寒空の下では震えてしまう。
 沖縄から引っ越してきたときに洒落たコートが着れるなどと、無駄に一人ではしゃいでいた自分が今となっては恨めしく思えた。
 高校から事務所までは歩いていける距離なのだが、今日はその道のりがいつもより長く感じられる。
 残り半分くらいの道に差し掛かったとき不意に思った。
 今すぐにでも何か適当に温かい物が食べたい、と。
 事務所に着いたら、すぐにレッスンの準備をしなくてはいけないのだ。
 だけど、その前に何か適当に温かい物を胃に入れ、この冷え切った体に熱を与えてやりたい。
 ポケットの中に入れてあった財布を取り出し、中を開け入っているお金を確認する。
 給料日前ということもあり財布の中には野口英世さん一人だけしか顔を見せてくれなかった。
 できるだけ無駄遣いは避けたい所なのだが、今の状況ではそうも言ってられない。
 意を決し、すぐ近くにあるコンビニに早足で向かった。
 ありがとうございましたという店員の声を背に、買ったものを早速袋から取り出した。
 熱々の肉まんと温かい缶コーヒーだ。
 冷え切った手には熱く、ついうっかり落としてしまいそうになる。
 落として泣く羽目になんてならないよう注意を払いながら肉まんの紙を剥がし、缶のプルタブを開けいつでも食べれるよう臨戦態勢を取る。
「いただきまーす!」
 人目に立つのも気にせず大口で肉まんを頬張る。
 熱さで舌が火傷しそうになるが、口の中いっぱいに広がる肉汁に自然と顔が綻んでしまう。コーヒーも程よい暖かさと甘さで喉を潤してくれる。
 一見、食べ合わせとしては悪いと思われそうだが、これがなかなか美味しいのだ。
 あっという間に食べ終え、紙くずと空き缶をゴミ箱に捨てると、さっきまで張りついていた陰気な気持ちはどこかへ消え去っていた。
 後に残ったのは摂取したカロリーを消費するために、いつも以上にレッスンに力を入れようという気持ちだけだった。
「よし。今日のレッスン頑張るぞ!」
 体も充分に温まったので気持ちを一新し、ウォーミングアップ代わりにと事務所に向かって駈け出した。

END


 響が元気で何より

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 買い食いしてその場で食べるとは、なんとも懐かしい青春時代の一幕。冬のコンビニの暖かいものは学生の懐の宿敵だったなと自分のことまで思い出しました。沖縄娘ともなれば慣れないうちはさぞ魅力的に映ることだろうなと我がことのように感じます。慣れると意外と寒さに強いらしいのですが。お腹に食べ物を入れて、ついでに体が暖まればなんだってできる。そんな若さを表現するのに響は凄くハマっているなと微笑ましく思いました。

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 響は馬鹿だなあ(褒め言葉)。大口を開けて肉まんに齧りついている情景が目に浮かびますね。寂しがりの子には、肉まんの温かさが丁度良いのかもしれません。

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 THE IDOLM@STERのような世界観を響が演じることに新鮮味を感じました。

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 夏の話が多い中で、冬の話は意外な感じがしました。でもよくよく読むと青春ですね。夏が似合うキャラの響で書かれたのも意外で面白かったです

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 貴音は言わずもがなだけど、響もなかなか食いしん坊キャラは似合うと思うんだ

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 響と肉まん半分こしたい。

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 ハム蔵のごとく食べ物をもきゅもきゅ頬張る響かわいい。

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 ちょっと改行が多すぎるかなと思います。日常の一風景を切り取った作品なのに改行が多くて上手く情景と心情が繋がらない感じになってしまってもったいない感じがしました。小説というよりは動画や漫画の1コマに入るキャプションの様な感じがしました。

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 背中を丸めていた響の背中が、しゃんとのびていくそんな様が脳裏をよぎるような、きれいな日常の点描だったと思います。



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