【Shiny Smile】
「う〜〜、っはぁ〜」
作業にようやく区切りがつき、私はめいっぱいの伸びをする。
「なんとか電車がある内には終わりそうかな」
人気の無いオフィス。
そこで私は一人、業務をこなしていた。
「さて、今はどんな話題で盛り上がってるのかな」
息抜きのために私はTwitterを立ち上げる。
「仕事詰めだと効率もよくないからね。 うんうん」
などと誰にともなく言い訳をして、タイムラインに目を向ける。
「……ん? 青春、m@ster?」
ふと目に留まった、誰かのRTで回ってきたその文字とURL。
見てみるとそこには『青春』をテーマにした、SSが並んでいた。
どうやらそれらを読んだり評価して楽しむものらしい。
SSはたくさんあったものの、1作品あたり1,000文字前後と短く、息抜きに読むにはちょうどいいものだった。
「どれどれ……」
私はあと少しだけ残った業務を尻目に、青く、甘酸っぱいSSにのめり込む。
***
気がつけば目を細めていた。
部活動、思慕、学食、あこがれ、友情、その他様々なカタチの『青春』を描き出すSSたち。
『青春』ってこんなにもまぶしかったっけ。
「青春かー……」
そう、ぽつりとつぶやくと、ああ年を取ったな、なんてしみじみ思う。
私の『青春』はどうだっただろうか。
軽く目を閉じ、学生の頃を思い出す。
私の『青春』は学校じゃなくて、ステージにあった。
学生の頃、私はアイドルをしていたのだ。
「デビューしたての頃は……、学校とお仕事で色々大変だったなぁ」
でも毎日が楽しくて、とても充実していたように思う。
何度もレッスンして、営業して、オーディションを受けて、ステージに立って ――
アルバムをめくるみたいにして思い返していく。
あの頃の私は、輝いていただろうか?
ステージを照らしたたくさんの光。
あのまぶしさに負けないくらい輝いていただろうか?
最後に立ったステージで最後に歌った歌を口ずさむ。
“お気に入りのリボン うまく結べなくて 何度も解いてやり直し”
そういえば、いつからリボンをしなくなったっけ。
ああ、そうだ。 あの日の夜からだ。
“君へと届きたい! 転びそうでも”
あのあと走って転んだっけ。 あはは。 我ながらドジだなぁ。
痛かったなぁ。 すごく。
“泣きそうな思いを乗り越えたら いつだってキラキラでいるよ”
もし、あのとき、乗り越えられていたら、キラキラでいられたのかな。
“私 君と”
***
「乗り越えたと思ってたんだけどな……。 あはは、情けないや」
人気のないオフィスで自嘲気味にひとりごちる。
「……、さて! 電車が行っちゃう前に終わらせなくちゃ!」
よくないよくない。 いつまでも引き摺ってちゃいけないよね。
ごまかすように意気込んでデスクに向かい、書類と時間を確認する。
「って、ええぇ!? ウソ!? もうこんな時間!?」
ああ、『あの頃に戻して欲しい』とは言わないけれど、1時間、いやせめて30分でもいいから時間を戻して欲しい。
そう思う程度には乗り越えられたと思います。
おわり
セルフ拍手!! のヮの
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だーまーさーれーたー!w 途中まで脳内ビジュアルが完全に小鳥さんでしたよ!w いやしかし、これはちょっと切なくなってしまう青春の淡い思い出ですなぁ…。 タイトルをあえて本文中で削り、そこで区切ったのも実にいいスタイルだと感じました。
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面白い。遅刻作じゃなかったら寓話さんが順番にすげー悩んだと思う
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春香ですねぇ。面白かったです。
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戻りたいけど戻れないもの。瞳を閉じて心を暖めるもの。 大変美味しゅうございました。
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お茶を汲むのもコピーもイヤだけど、私shiny smile! 題材と登場人物選択が、あざとすぎやしませんかw
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小鳥さんと見せかけての春香さん。メタな要素を入れてこれまでの作品を思い起こさせるワードを拾いながら、作者さん達・読者達に重なり合うようにして回想にふける春香さんがいい女で、女の子でした。締めとして確信犯的に遅刻されたのかなぁなどとも思いつつ、半分読み手に同化したままの春香さんが真っ直ぐ顔を上げるものだから自分たちまで元気づけられたような気になりました。ただひとつ、読む前に登場アイドルを見なければよかったと思いつつ。
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ある意味後出しを逆手にとったメタな構成です。けれど、わた春香さんの可愛さで水に流してあげたくなってしまいます。アイドルとしては成功できなかったようですが、その前向きな姿勢に救われます。私もせめて青春m@ster2が始まる前でもいいから時間を戻して欲しい、そう思う程度には乗り越えられたと思います。最後の(?)〆として悪くない作品だったと思います。スパイ108号さんお疲れ様でした。
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小鳥さんだと思ったら春香。まさかの天海、いや展開が面白かったです。
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春香が春香っぽくて面白い作品でした
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ぺろっ……これはスパイ108号さんの雰囲気……!
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