【思うまま気の向くまま】



今日はオフの日、普段なら昼頃まで寝てしまうけど今日は違った。
いつも大音量で鳴り響く目覚まし時計、しかしその力を借りることなく目が覚めたのは奇跡に近い。

窓を眺めれば閉め切ったカーテンの隙間から僅かに漏れる日差しが見えた。
普段ならそのまま二度寝をするところだろう。でもその先の景色が気になり体を起こした。
少し寝ぼけ眼ではあるがカーテンを勢いよく開けてみる。

そこには青々とした雲一つない空、こんな空を見るのも久しぶりである。「早起きは三文の得」三文は現代では幾らなのか知る由もない。でも何もせず寝て過ごすのも勿体無く思えてきた。


朝の風景を楽しみながらちょっと遠くまで散策してみよう。
そう思い立った少女は寝グセを直し寝巻きを脱ぎ捨てタンスを開ける。適当に選んだホルターネックのタンクトップ、ひざ下を少し覆うサブリナパンツ。動きやすいコーディネイトだ。

家にあるママチャリを引っ張り出し小さなカバンをカゴに置く。

右に行こうか左に行こうか、とりあえず気の向くまま自転車を漕ぐ。
近くの公園に差し掛かった。ランニングをする学生、朝から愛犬の散歩をするお爺さん。喧騒になる日中と違いこの町も静かな時間があるんだと知ることが出来た。


この道を真っ直ぐ行けばいつもの通学路、でもこの反対の道はどこに繋がってるのだろう?今まで何度も通ってきたが一度も通ったことはなかった。

暫く漕ぎ続けたら少し下り坂に差し掛かった。丁度漕ぐのが面倒くさくなってきた、足を止め惰性だけで坂を下っていく。
心地いい風が体に触れる。このまま下り続けてくれたら楽に散策が出来るのに。しかしその気持ちをあざ笑うかのように今度は緩やかな上り坂が現れた。


自転車を止め少し考える。左を見れば遠くに下り坂が見えた、そして再び坂道を見つめてみる。すると頂の方に展望台のようなものが見えた。普段の自分なら面倒くさいことは避けるだろう。しかしたまには難題に挑んでみるのもいいかも知れない。
「よしっ!」声を上げ上り坂に向かって自転車を再び漕ぎ始める。思ったより快適だ。普段からレッスンの積み重ねのおかげでコレぐらい平気だったようだ。

体中から汗が吹き荒れる、でもあと少しでさっき見えた展望台だ。あと少し、あと少し・・・力を振り絞り目的の展望台に着いた。

「キレイなの・・・」思わず声に出てしまった。こんなに景色がいい場所が身近なところにあると思わなかった。

カバンの中から携帯を取り出し撮影する。自分達が住む町をこのように眺めるとは思わなかった。
暫く景色を眺めてたら疲れを覚えベンチに腰掛けることにした。

「あふぅ」
思わず欠伸をしてしまった。ちょっとだけ横になろう、ほんの少し横になるだけだ。
体中の力が抜けていき自然と瞼も閉じる。

少しと思った時間はやがて夕闇へと変わるとも知らずに少女は眠りに就いていった。
口煩いメガネを掛けた事務所の先輩に起こされるまで・・・。



おしまい


 知らない街を歩くとき、不思議と胸が躍る。実は、自分の生活圏と言うもの自体はほとんど、点と点を結んだ間の中にしかなくて、いつもの交差点を逆に曲がれば、自分の知らない街が見えたりする。そんな発見はすごくわくわくするし、進んでみたいと思う好奇心が背中を押してくれる。それもまた、若さの特権なのだろうと思う。爽やかな朝の空気に誘われるように飛び出した美希の躍動感と、美希らしいオチに思わずくすりと笑いが溢れる、そんな良いお話しでした。

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 なんだか陽気を感じさせるお話でしたね。

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 よく知っていたはずの街のちょっとした冒険。こういう話となると真が似合いと思うところだったのですが、意外にもここで生まれも育ちも都会っ子な印象の美希。予想外だったのは思いの外――真とは違う意味で――似合うことでした。真だとスポーツ少女の一日といった風情になるところで、美希だとまるで猫の散歩。しかもその中に素直な情動が爽やかに描かれていることで、青春らしさは損なわれていない点が優れていたと思います。

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 猫が散歩するのを一日中追っかけてみるような不思議な手触りがありますね、美希の一日w

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 美希らしくも無い朝の情景で、美希らしく微笑ましい、そんな話でした。

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 ほのぼの美希。

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 「口煩いメガネを掛けた事務所の先輩」との日常も見てみたいものです(笑)

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 「美希」と、「なんでもない時間」の組み合わせは、個人的には珍しいものを見た気がしています。 らしさもあるのが良いですね。

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 最後の眼鏡の先輩が出てくるのがちょっとニヤニヤしちゃいますね。いつもと違った道を走ることでいつもと違った街の姿が見える、ちょっとした冒険と言うか、小旅行というか、とても爽やかでいい雰囲気でした。

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 特に何の理由もなくふらふらと散策をする美希がすごく美希っぽいと感じました。それに、こういう日があることもまた青春なのでしょう。最後の律子は少々やりすぎの感もありましたがw

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 オチが好みでした。



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